があったものでしたから、ご当代家光公に至って、憐憫《れんびん》の情が加えられ、甚十郎の死後十年のちにして新規八百石のお取り立てをうけることになったのです。ところが、そのご内意を知ったとき、はしなくもここに一つの故障がもち上がりました。右門の出馬するにいたったこの少年|誘拐《ゆうかい》事件の発端が、すなわちその故障に基因していたのですが、すでに知らるるとおり、あれなる青まゆの女は、生まれが葉茶屋の多情者でしたから、お家の断絶後における淫楽《いんらく》の自由を得んために、じゃまな嫡子はもとの忠僕であったあの質屋、すなわち三河屋へくれてしまったのでした。そこへ新規八百石にお取り立てという宗家大久保加賀守からのご内意があったものでしたから、青まゆの女のにわかに狼狽《ろうばい》したのは当然なことで、しかも嫡子なる質屋へくれた少年を召し連れて、宗家大久保加賀守のところへ出頭するについては、あの茶わんの中でたわいもなく溶けてしまった金の大黒がぜひに必要でありました。あの見かけ倒しなどろ大黒こそは、実をいうと加賀守から少年がまだ幼時のみぎりお守りとして拝領したもので、それにしてはろくでもないお守りをや
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