けて、兄貴をでもたしなめるようにいいました。
「ちえッ。またなんかごきげんがわるいですね。うすみっともねえ。心中の相手を捜すんじゃあるめえし、だんなほどの人気男がぼんやり往来ばたへつら突き出して、なんのざまです。ね、いい事件《あな》みつけてきたんですよ」
しかし、右門はぐいと伝六にその顔をねじ向けさせられるにはさせられましたが、依然ぼんやりと小首をかしげて、さもたいくつしきったようにむっつりとおし黙ったままでしたから、心得て伝六がかってにあとをつづけました。
「ようがす、ようがす。そんなにあごがだるけりゃ、あっしがこうやってつっかえ捧になってあげますからね、話の筋だけをお聞きなせえよ。ね、ゆうべおそくになって駆け込み訴訟をしたんだそうですが、だんなは牛込の二十騎町の質屋の子せがれが、かどわかされたって話お聞きになりませんでしたか」
「なんだ、それか。じゃ、きさま、小当たりに当たってみたな」
すると、意外にも右門がちゃんとその事件を知っていて、あごを伝六にささえさせたまま話に乗ってまいりましたものでしたから、おしゃべり屋が急に活気づきました。
「へえい。じゃとおっしゃいましたところを
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