たような顔つきで同心控え室の片すみに陣取り、もう右門党のみなさまがたにはおなじみな、あのひげをぬく癖をあかずにくりかえしくりかえし、半日でも一日でも金看板のむっつり屋をきめ込むのがそのならわしでした。もっとも、その間になにか珍しいお吟味でもあるときは、お白州に出向いていって、にこりともせず玉川じゃりを見つめていることもあるにはありますが、で、その日も無聊《ぶりょう》に苦しんでおりましたから、例のごとく同心控え室へ陣取り、そこの往来に面したひじ掛け窓の上にあごをのっけて、あの苦み走った江戸まえの男ぶりを惜しげもなく風にさらしていると、
「だんな! ね、だんなえ!」
ささやくような小声ではありましたが、なにごとか重大なことをでもかぎ出してきたとみえて、人目をはばかりながら、ぽんと右門の肩をたたいた者がありました。いうまでもなく、おしゃべり屋の伝六でした。けれども、そういうときのむっつり右門は、まゆげが焦げだしてきてもめったに返事なぞすることではないのでしたから、振り向きもせずにぼんやりと往来の人通りを見詰めておりますと、相手にしないので伝六は少し腹がたったか、ぐいとその肩をこちらへねじ向
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