》に色っぽいのです。しかるに、異様な姿だというのはまずその髪の毛でありました。まだじゅうぶんに情けの深さを示す漆黒のぬれ羽色をしていながら、中ほどをぷっつりと切った切り下げ髪で、だからまゆは青々とそって落として、口をあけてはいないからわからないが、歯はむろんのことにおはぐろ染めに相違なく、したがってどこのだれがどう見ても、ひと目に若後家とうなずかれるいでたちをしていたものでしたから、若後家さんである以上その者が古道具屋の妻女でないことは、はっきりと右門にわかりました。のみならず、食べ物のよさを物語るようなそのたいへんぐあいのよろしい太り肉《じし》の色つやから判断すると、どうしてもご大家の育ちらしいので、しかもそれが普通のご大家ではなく、おうへいに長火ばちの向こうの正座を占めているところから察すると、このみすぼらしい古道具屋のおやじには主人筋にでも当たる身分の者のような節がありましたから、右門は異様以上に不調和な両人の対照のために、先鋭きわまりなきその心鏡を、早くもぴかぴかととぎすましました。
 けれども、たとえ心にどんな変動があったにしても、それをみだりに色へ出す右門とは右門が違います
前へ 次へ
全48ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング