にちがいありますまい。草双紙狂で役者志願の一見不良じみた少年でこそはありましたが、ともかくも人間ひとりが生死も不明の誘拐《ゆうかい》をされたというんですから、犬やねこがまい子になったのとは、おのずから事が相違しなければならないはずだからです。しかも、その下手人とおぼしいしばや者の小道具方が、白昼恐れげもなくにたにたと薄気味のわるい笑いをうかべて、まごうかたなき人間の子どもの足を日なたぼっこさせていたというのに、右門はいかにも涼しい顔をしながら、色消しなことには握りずしを二十個も平らげて、これからゆるゆると昼寝をしようといったんですから、右門を信ずることだれよりも厚く、また右門を崇拝することだれよりも厚い伝六にしても、これはかんかんになっておこるのがもっともなことにちがいないのです。
けれども、それらのいぶかしい右門の態度も、夕がたが来るとすっかりなぞが解けてしまったんですから、やはりこれは、われわれの親愛なる右門にあなごと蛤《はま》を二十個平らげさせてゆるゆる昼寝をさせたほうがましなくらいなものでありました。なぜかならば、あれほどかんかんにおこって行った伝六が、その夕がたになるとしょ
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