などたん場ですよ。また夢中になって、がつがつといくつ召し上がるんですか! あなごの味を知らねえ国から来たんじゃあるめえし、いいかげんにおしなすって、早く草香流の腕まえを貸してくだっせえよ」
しかし、右門は目をほそくしながら、伝六ではなく、そこのおやじに、ごく上のきげんでいったものです。
「ほう。あなごばかりと思ったら、こっちの蛤《はま》のほうもなかなかの味だな。この梅雨《つゆ》どきに、これほどの薄酢だけで、かくもみごとな味をもたせる腕まえは、どうして江戸随一じゃ。これからもちょいちょいやっかいかけに参るによって、よく顔を覚えておきなよ。あなごと蛤をまたたくうちに二十平らげたおおぐらいの男と思ってな――」
そして、満腹そうに炮《ほう》じ立ての上がりばなを喫しながら、小ようじで並びのいい歯の上下をさかんにせせくっていましたが、ちゃらりとそこへ小銀を投げ出すと、のどを鳴らしながらも手を出しえないほどに、もうさっきからひとり気をあせりきっていた伝六のほうへようやくにふり返って、おどろくべきことをごくさわやかにいったものでした。
「だいぶ手間どらしたな。おかげでじゅうぶんの満腹、これでぐっす
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