きげんで、とくりのしりをなでなで燗《かん》かげんを計っていると、突然でした。風のようにお次の間のふすまがあいたかと思うと、見るからにういういしい高桃割れに結って、年のころならやっと十五、六くらいの楚々《そそ》とした小女が、いま咲いた山ゆりででもあるかのように、つつましくもそこへ三つ指をついていたものでしたから、口ではいろいろときいたふうなことをいうにはいいますが、面と女に向かうと、うれしいことに、からもういくじのなくなるたちでしたので、まことにどうも笑止千万、すっかり伝六はこちこちになってしまって、あわてながらひざ小僧をかき合わせると、しかられたかめの子のように、そこへちまちまとかしこまってしまいました。同時に、右門も隣のへやから気がついたのですが、さすが右門は右門だけのことがあったものでしたから、べつに顔の色もかえず、静かに問いかけました。
「どうやら、ここはどなたかのご茶寮《さりょう》のようにも思われまするが、あなたさまは?」
「はっ……あの……わたくしは……」
 いいかけましたが、まこと陰陽《おんよう》の摂理というものはあやかなものとみえて、小娘ながらも右門のごとき天下執心の美丈
前へ 次へ
全56ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング