けて推断したなら、おそらく二日とたたないうちに下手人の摘発ができるだろうという自信がついたものでしたから、右門はもうまことに余裕しゃくしゃくたるもので、少しとぼけながら、伊豆守にいいました。
「旅であう春の夜というものは、また格別でござりまするな。では、もうおいとまをちょうだいしとうござりまするが、よろしゅうござりまするか」
「お! そうか! ならば、もう確信がついたと申すんじゃな」
「ご賢察にまかしとう存じまする」
「では、何もこれ以上申さなくとも、そちにはわしの胸中にある秘事も、見込みも、ついたのじゃな」
「はっ。万事は胸にござります。なれども、わたくしが捜査に従うということは、なるべく厳秘に願わしゅうござります」
「そうか。それきいて、松平伊豆やっと安堵《あんど》いたした。では、今後の捜査なぞについて不自由があってはならぬゆえ、この手札をそちにつかわそう。遠慮なく持ってまいれ」
 さし出された手札を見ると、この者の命令は予が命令と思うべし、松平伊豆守――と大きく書かれてあったものでしたから、まったくもう右門は鬼に金棒で、躍然としながら城中を辞し去りました。出ると、これもつるの一声
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