川の顕職にあることも忘れて、ひざをすすめながらざっくばらんに尋ねました。
「なにかは存じませぬが、その奇っ怪事とやらは、殿さまご帰国ののちに起こったのでござりまするか、それとも以前からあったのでござりまするか」
「それがわしの帰国と同時に起こりよったのでな、不審にたえかね、そうそうにそのほうを呼び招いたのじゃわ」
「といたしますると、何かご帰国に関係があるようにも思われまするが、いったいどのような事件にござります?」
「一口に申さば、つじ切りなのじゃ」
「つじ切り……? つじ切りと申しますると、いくらでも世の中にためしのあることでござりますゆえ、別段事変わっているようには思われませぬが、なんぞ奇怪な節でもがござりまするか」
「大ありなのじゃ。難に会うた者は、奇怪なことに、いずれも予が家中での腕っききばかりでの、最初の晩にやられた者は西口流やわらの達人、次の晩は小太刀《こだち》の指南役、三日めは家中きってのつかい手が、一夜に三人までもやられたのじゃ。しかも、それらが、――」
「一|太刀《たち》でぱっさりと袈裟掛《けさが》けにでもされたのでござりまするか」
「いや、ぱっさりはぱっさりなんじ
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