―いや、これはこれは、どうもとんだお手間をとらせました。さぞかし伊豆守様お待ちかねにござりましょうから、ではご案内くださりませい」
何が何やら解しかねるといったおももちで、ぽかんとそこに番士たちが待ちあぐんでいましたものでしたから、右門は改まって声をかけると、城中への案内を促しました。
2
石高はわずか三万石の小藩ではありましたが、さすがは天下の執権松平伊豆守の居城だけあって、とわに栄える松の緑は夜目にもそれと青み、水は満々と外濠《そとぼり》内濠の兵備の深さを示して、下馬門、二の門、内の門と見付け見付けの張り番もきびしく、内外ともに水ももらさぬ厳重な警備でした。むろん、伊豆守はことごとくお待ちかねでしたので、右門参着と聞くやただちにご寝所へ通して、刻下に人払いを命ずると、すわるもおそしと声をかけました。
「遠路のところわざわざ呼びだていたして、きのどくじゃった。そちのことであるゆえ、重大事とにらんで参ったことであろうが、実は少しばかり奇っ怪なできごとが突発いたしよってな」
思いに余ったもののごとく、すぐと事件の内容に触れてこられましたものでしたから、右門も相手が大徳
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