いい縁側にとぐろを巻きながら、しきりと例のように無精ひげをまさぐっていると、突然|数寄屋橋《すきやばし》から急使があって、旅のしたくをととのえ即刻ご番所まで出頭しろという寝耳に水のお達しがあったものでしたから、めったには物に動じないむっつり右門も、少々ばかりめんくらったことでした。
「近ごろのだんなの色男ぶりときちゃ業平《なりひら》もはだしの人気なんだから、ひょっとするとなんですぜ、だんなに首ったけというどこかの箱入り娘が、ご番所の名まえをかたって、だんなを道行きにおびき出したのかもしれませんぜ」
むろん、そばにはおなじみのおしゃべり屋伝六が影の形に添うごとくさし控えていたものでしたから、ちらりとそのお達しを小耳にはさんで、聞く下からもう例のごとくお株を始めながら、右門ともどもに不審を打ったのは無理からぬことでしたが、いずれにしても火急にというお達しでありましたから、伝六にも長旅の用意をさせて、さっそくご奉行所《ぶぎょうしょ》までやって参りますと、それがつまり忍《おし》行きの命令だったのです。しかも、今から取り急ぎ出立いたせという火のつくようなお奉行の命令で、命令だけは足もとから鳥の
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