から、必ずやこの犯罪は忍一藩だけのものであるまいとにらんだからで、とすれば、なにか江戸とも連絡がある犯行に相違あるまいから、あるならばそういう場合の犯罪者の心理として、江戸との連絡通信網をだれにも選びやすい近道の熊谷|街道《かいどう》へおかずに、かえって人の選びにくい遠道の羽生《はにゅう》街道へ置くに相違あるまいという考えが起こりましたものでしたから、むろんまだどういう犯罪が起きているのかまるで見当さえもついていなかったのでしたが、万が一の場合にと思って裏の裏をかいていこうという計画から、わざと羽生街道を迂回《うかい》してみる気になったのでした。だから、右門は道々をなんの気なさそうに歩いていながらも、何か目をひくような旅人でも通りかかりはしないかと思って、たえず注意をつづけてまいりました。久喜の宿へはいったのが翌日の午《うま》の下刻――。
「おっ、こいつあめっけものだ。ね、だんな、ごらんなせえよ、あそこに名物いなりずしとありますぜ。あっしゃもう三里も前から、とんと腹が北山しぐれなんですから、早いところ二十ばかりつまんでめえりましょうよ」
右門も少々空腹でしたから、伝六の動議に従って、天蓋のままずいと茶店の中へはいっていきました。と、そのとき、ちらりと右門の目をひいた異様な二組みの旅人がありました。いずれも四十まえの年配で、秩父《ちちぶ》名物のさるまわしなんですが、それぞれ、一匹ずつのさるをひざにかかえながら、しきりといなりずしをつまんでいるのに、眼光が少しばかり烱々《けいけい》として底光りがありすぎるのです。この目というやつは、人間の五官のうちでおよそいちばん的確にその人の職業を物語るものですが、たとえばすりの目はたえずおちつきがなく、うどんやの目はのし棒のように横へ長く動き、糸屋さんだったらくるくると糸車のように動くのが定《じょう》なものですが、しかるに、ふたりのさるまわしたちの目の色は、そのすわり方といい眼の配りといい、どうも一刀流ぐらいはつかいそうな底光りをもっていたものでしたから、右門の探偵眼《たんていがん》は天蓋の中において瞬間に武装をととのえ、ぎろりと両人の挙動の上にそそがれていきました。
――と、いかにも不思議です。それぞれさるのえさは各自が各自の分だけを持っているはずなのに、茶店を立ちぎわになると、互いに飯籠《はんご》をあけて、中にあった椎《しい
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