思議な変わり方だった。ぴたり――右門の足が突然そこへくぎづけにされてしまいました。同時に、鋭い声で――。
「伝六!」
「え? てんかんでも起きたんでござんすか?」
「バカ! どうやら大きなさかながかかりそうだぞ」
「どこです? どこに泳いでいます?」
「あいかわらず、きさまはひょうきん者だな、敬四郎どのの様子が尋常でない。今からすぐお奉行所までひとっ走り行ってこい!」
「またあれだ。やぶからぼうに変なことをおっしゃって、このうえあっしをかつぐ気でござんすかい?」
これは無理もないので。ひとことも訳は語らないで、ほんとうにやぶからぼうに右門の空もようががらりと変わりましたものでしたから、なにがなにやらふにおちかねて伝六が二の足を踏んだのはまことに無理からぬことでしたが、しかし、名犬はよくそのにおいによって獲物の大小をかぎ分く――実はそれが右門の右門たるところで、早くもかれは、その全身にみなぎりあふれている名同心のたぐいまれな嗅覚《きゅうかく》で、事の容易ならざるけはいをかぎとったのです。何によってかぎとったか?――いわずと知れた今のその敬四郎の目の色で、それからそのうろたえ方で、こいつ
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