なりませんでしたから、小塚ッ原行きなぞはむろん不必要、伝六が聞いてきたそのならず者の宿所をたよりに、右門はすぐさまめしとりの行動を開始いたしました。
 伝六は十手、取りなわ、右門はふところ手に例の細身を長めにおとして、雨中を表へご番所を門から出ようとすると、行き違いに向こうから、意気|昂然《こうぜん》とひとりのなわつきを従えながらやって参りました者がありました。だれでもない、あばたの敬四郎です。
「あっ!」
 同時にそれを認めた伝六があっといいましたので、右門もぴんと感じてささやきました。
「あのなわつきが、きさまの聞いたほしか!」
「そうらしいでがすよ、そうらしいでがすよ。おやじの話した人相書きによると、その若い野郎は右ほおに刀傷があるといいましたからね。ちえッ! ひと足先にやられたか。くやしいな! いかにもくやしいな!」
 まことならば万事休す!

    4

 だが、事実は、そこからさらに怪談以上の怪談に続いていたから、まだまだ、万事は休さなかった。しょっぴいてきた若者をお白州へ引きすえて、大得意の敬四郎がぴしぴしと痛み吟味をかけているさいちゅうへ、その配下の者がまろび込むよう
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