ろ――したがって、石の音は真に戞然と高い!
と――まことに人は碁のごとき清戯をも覚えておくものですが、その第一石の石の音が終わるか終わらないうちに、ふと気がついて、右門はおもわず、なんのことだ! そう吐き出すように大きく叫びました。肝心なことに、ほんとうに肝心かなめの肝心なことについて気がつかずにいたことが、ふと思い出されたからです。ほかでもなく、それは首――三晩つづけて胸の上にのっかっていたというその生首の実物を、このときにいたるまで、まだ一度も改めずにいたことが思い出されたからでした。訴えてきた以上は、むろんご番所へその実物を提供してあるにちがいないと思われましたので、右門は気がつくと同時に、一刻を争いながら数寄屋橋《すきやばし》へ駆けつけました。
と――はたしてあった。三個とも厳重に蝋封《ろうふう》を施した箱に入れて、ちゃんとご奉行席のわきに置かれてあったのです。かれはただちに、内見をお奉行神尾元勝に申し入れました。功名はたてておきたいもので、これが普通の与力同心ならば、ごく内密にといったそのことばのてまえ、容易に披見は許されないはずですが、右門の才腕がものをいいました。
「
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