は三倍に疑惑を強めながらも、第一段の方策は放棄するのほかはありませんでした。放棄すれば、いうまでもなく事件のいっさいについて、いたずらであるか、目的を持った犯行であるか、また何がゆえにそうまでも秘密を守り、かつまた会うことを避けねばならないのであるか、それらの糸口となるべき材料をつかむことも、その探索への順序を立てることすらも、なんら判断を下すことが不可能になったのですから、自然の結果として、かれに残された道はただ一つ、その事件から手を引く以外にはないことになりました。
しかし、そんなことで、さじを投げるような右門とは右門が違います。こうなれば、残らず物的証拠を洗いたてて、かれがつねに得意の戦法としているからめてから糸をたぐり、あくまでもこの怪奇な秘密に包まれた事件の底を割ってみせようと思いたちましたから、ふふんというように小気味のいい冷笑を敬四郎配下の小者どもに残しておくと、さっさと表へ出ていきながら、たこのように口をとんがらしてひとり腹をたてていた伝六に突然命じました。
「大急ぎで駕籠《かご》屋を二丁ひっぱってこい!」
「え? また駕籠ですか。南蛮幽霊のときもそうでござんしたが、
前へ
次へ
全46ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング