うに左の目をえぐりぬかれて、べっとりと生血に染まりながら胸先にのっかっていたというんですよ」
「ふうむのう」
 二度まではさほどにぶきみとも思わなかったのですが、ついにそれが三たびも続き、しかもその三たびめは雨の日とはいいながら昼日中に行なわれて、加うるに三度が三度違った生首であることが奇異なところへ、いずれもその死に首の左目ばかりがえぐり抜かれていたといったのでしたから、さすが物に動じない右門も、はじめてそのときぞっと水を浴びながら、おもわず、うめき声を発しました。けれども、それはしかし、ほんの瞬間だけのうめき声でした。明皎々《めいこうこう》たること南蛮渡来の玻璃鏡《はりきょう》のごとき、曇りなく研《と》ぎみがかれた職業本能の心の鏡にふと大きな疑惑が映りましたので、間をおかず伝六に不審のくぎを打ちました。
「だが、一つふにおちないことがあるな。それほどの奇異なできごとを、小田切久之進とやら申すその旗本は、なぜ今日まで訴えずにいたのかな」
「そこでがすよ、そこでがすよ。あっしもねた[#「ねた」に傍点]は存外その辺にあるとにらんだのでがすがね。三百石の小身とはいい条、ともかくもれっきとし
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