内聞にいたせよ」
そういう注意のもとに、お奉行神尾元勝みずからが蝋封を破ってくれましたものでしたから、右門はひとみをこらしながら、順次に三個の生首へ目をそそぎました。伝六の報告どおり、第一の首はまだうら若い女、第二の首は坊主頭、第三の首は五十を越した老人で、左の片目はこれも報告どおり、一様にえぐりぬかれてあるのです。それから、べっとりと血がまだたれたままで。――
けれども、じっと見つめているうちに、右門ははっと思いました。血が新しい割合にしては首が古い! だのに、首が古い割合にしては腐乱が見えない! 四月というこの陽気ですから、かりに腐乱が来ないにしても、もうにおいぐらいはついていなければならないはずですが、古い首なのに、それすらもないのです。
「はてな!」
と思いましたから、右門はぶきみなことをも忘れながら、かまわずに指先をもってその首の面をなであげました。と――なにかねっとりとした湿気を感じましたから、さらにひるむことなく首に触れたその指先をくちびるにあててみると――塩っ辛い! まるで、口がゆがむほど塩っ辛いのです! 右門はすかさずにお奉行へ問いただしました。
「これなる首は、当ご番所へ参りましてから塩づけになされたのでござりまするか」
「なに、塩づけ……? そのような形跡があるとすれば少しく奇怪じゃが、いずれもそれらは小田切殿持参されたままの品じゃぞ」
持参のままの品と聞きましたから、右門の明知は瞬時にさえ渡って、瞬間に断案を下しました。首は拾いものか買いものか、いずれにしても塩づけの骨董品《こっとうひん》をほかから求めきたったものに相違ないのです。そして、その骨董品を生首と見せかけるべく、別な血を塗ったものに相違ないのです。としたら――右門は必死と考えました。いったい、この首の骨董品はいずこに売っているか?――いうまでもなく、人の死に首なぞ売りひさぐ酔狂な商家は、江戸広しといえどもあるはずはないんですから、出所はむろんのことに、平生塩づけの首の貯蔵を許されている個所に相違ないはずでした。しからば、その公許の塩づけ貯蔵個所なるものは、そもそもどこであるか?――右門の判断を待つまでもなく、それは鈴ガ森と小塚《こづか》ッ原《ぱら》の二個所です。すなわち、首は罪人の首、いまわしきあの獄門首に相違ないという判定が、たなごころをさすごとくたちどころにつきましたも
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