の動静を探らしたくらいでしたが、しかしさいわいなことに、その島原の騒動も、知恵|伊豆《いず》の出馬によってようやく納まり、乱が起きてからまる四月め、寛永十五年の二月には曲がりなりにも鎮定したので、おひざもとの江戸の町にも久かたぶりに平和がよみがえって、勇みはだの江戸っ子たちには書き入れどきのうららかな春が訪れてまいりました。
 いよいよ平和になったとなると、鐘一つ売れぬ日はなし江戸の春――まことに豪儀なものです。三月の声を聞くそうそうからもうお花見気分で、八百八町の町々は待ちこがれたお花見にそれぞれの趣向を凝らしながら、もう十日もまえから、どこへいっても、そのうわさでもちきりでした。
 南町|奉行《ぶぎょう》お配下の与力同心たちがかたまっている八丁堀《はっちょうぼり》のお組屋敷でも、お多聞に漏れずそのお花見があるというので、もっともお花見とはいってももともとが警察事務に携わっている連中ですから、町方の者たちがするように遠出をすることはできなかったのですが、でも屋敷うちの催しながら、ともかくもその日一日は無礼講で骨休みができるので、上は与力から下|岡《おか》っ引《ぴ》きに至るまで、寄ると
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