は (あれはむかしのことだつた)と
私らの こころが おもひかえすだけならば! ……
《おまへの心は わからなくなつた
《私のこころは わからなくなつた
V また落葉林で
いつの間 もう秋! 昨日は
夏だつた……おだやかな陽気な
陽ざしが 林のなかに ざわめいてゐる
ひとところ 草の葉のゆれるあたりに
おまへが私のところからかへつて行つたときに
あのあたりには うすい紫の花が咲いてゐた
そしていま おまへは 告げてよこす
私らは別離に耐へることが出来る と
澄んだ空に 大きなひびきが
鳴りわたる 出発のやうに
私は雲を見る 私はとほい山脈【やまなみ】を見る
おまへは雲を見る おまへはとほい山脈を見る
しかしすでに 離れはじめた ふたつの眼【まな】ざし……
かへつて来て みたす日は いつかへり来る?
VI 朝 に
おまへの心が 明るい花の
ひとむれのやうに いつも
眼ざめた僕の心に はなしかける
《ひとときの朝の この澄んだ空 青い空
傷ついた 僕の心から
棘【とげ】を抜いてくれたのは おまへの心の
あどけない ほほゑみだ そして
他愛もない おまへ
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