、集団の意志をねりあげ、共同の生活をもりあげていこうという、この塾の第一の眼目《がんもく》が、光りすぎた一人物の圧倒的《あっとうてき》な影響力《えいきょうりょく》によって、自然にくずれてしまうのではあるまいか。そうしたことが気づかわれたのである、
 で、先生は最初、大河につぎのような意味のことを答えた。
「君のような人に、この塾の生活を十分理解してもらうということは、学校教育にも何かきっとプラスになることだと信ずるし、その意味で、むろん私としては、大いに歓迎《かんげい》したい。しかし普通《ふつう》の塾生として来てもらうには、君はもうあまりにレベルが高すぎる。こちらとしては取り扱《あつか》いにも困るし、君としても物足りない気持ちがするだろう。で、学校の手すきの時に、おりおり見学といったようなことでやって来てはどうか。ここには君よりも三つ四つ年の若い助手が一名いるが、その助手に協力するといった立場で、見学してもらえば好都合だと思うのだが。」
 大河は、しかし、そのすすめには全然応ずる気がなかった。かれは言った。
「僕《ぼく》はこれからの僕の教育生活の方向|転換《てんかん》をする決心でお願い
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