がまじっており、それらは比較的年かさの青年たちだった。
どの顔もひどくつかれて、不安そうに見えた。これは、毎回のことで、決してめずらしいことではなかった。入塾生の大部分は、東京の土をふむのがはじめてであり、それに一人旅が多い。募集要項《ぼしゅうようこう》の末尾《まつび》に印刷されている道順だけをたよりに、東京駅や、上野駅や、新宿駅の雑踏《ざっとう》をぬけ、池袋《いけぶくろ》から私鉄にのりかえて、ここまでたどりつくのは、かれらにとって、なみたいていの気苦労ではなかったのである。
次郎は、青年たちのそうした顔が見えだすと、もう荒田老や道江の顔など思い出しているひまがなかった。かれは、かれらがまだ玄関に足をふみ入れないうちに、何かと歓迎《かんげい》の気持ちをあらわすような言葉をかけた。そして、かれらの名前をきき、それを名簿とてらしあわせて、到着《とうちゃく》のしるしをつけおわると、すぐかれらに朝倉夫人を紹介《しょうかい》した。
「この方は、塾長《じゅくちょう》先生の奥さんです。期間中は、あなた方のお母さん代わりをしていただく方なんです。」
それをいう時のかれの顔はいかにも晴れやかで、得
前へ
次へ
全436ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング