袋《たび》もはいていなかった。しかし、べつに寒そうなふうでもなく、両足をふんばり、頭から一尺ほどの高さの板木を、近眼鏡の奥《おく》から見つめて、いかにも念入りに、ゆっくりと槌《つち》をふるっていた。
次郎は、思いきりドアをあけ、
「おはようございます。」
とあいさつして、大河に近づいた。
大河は、その時、ちょうど槌をふりあげたところだったが、それを打ちおろしたあと、ちらと次郎のほうを見て、あいさつをかえした。
そして、そのまま、すこしも調子をかえないで、また槌をふるいつづけた。
「もういいでしょう。ずいぶんながいこと打ったんじゃありませんか。」
次郎が、寒そうに肩《かた》をすくめながら、言うと、
「ええ、でも、まだだれも起きた様子がないんです。」
と、大河は槌をふるいながら、こたえた。
「しかしもう眼はさましていますよ。」
「そうでしょうか。」
「きっとさましていますよ。どの室にも、眼をさましているものが、もう何人かはあるはずです。」
大河は、それでも同じ調子で打ちつづけながら、
「いつもこんなに起きないんですか。」
「ええ、はじめのうちは、いつもこんなふうですよ。五分や
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