いつでも退塾するよ。わざわざ旅費を使って出て来たのが、ばかばかしいけれど、しかたがない。」
 室内が急にしいんとなった。
 次郎は、これまでの例で、この日の室ごとの相談会に大した期待はかけていなかった。また、軽い気持ちでなら、かれらの間にそうした言葉のやりとりぐらいはあるだろう、とも想像していた。しかし、しゃがれた声の調子はあまりにもいきりたっていたし、それを今朝の式場での平木|中佐《ちゅうさ》の言葉と結びつけて考えないわけには行かなかった。
 かれは変な胸さわぎを覚えながら、息をころしていた。
「じゃあ、君にまかせるかな。」
 だれかが不安そうにいった。
「ほかの室では、どうなんだろう。」
 べつの声で、これもいかにも不安そうである。
「ぼく、様子を見て来るよ。」
 だれかが立ちあがる気配《けはい》だった。
 次郎は、それであわてて事務室のほうにいそいだ。
 かれは、事務室にはいっていって自分の机のまえに腰《こし》をおろすと、急に、立聞きをしたり、あわてて逃《に》げだしたりした自分のみじめさが省《かえり》みられて、さびしかった。それは、変にいらいらしたさびしさだった。しだいに腹もたっ
前へ 次へ
全436ページ中134ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング