ったような意味だったと思う。今だからいうが、ぼくは、実は、それを読んだとき、道江は君を愛しているのではないかと、ちょっと疑ってみたくなったくらいなのだ。――といっても、それが原因で、ぼくが道江との婚約を断わったわけでは、むろんない。――なお、これも手紙に関連したことだから、ついでに言っておくが、道江は、君が上京以来一度もたよりをしなかったことを、なぜぼくのほうにうったえて来なかったのか、今になって思うと、それもぼくにはふしぎでならないのだ。ひかえ目な女性というものは、自分が心の中でひそかに愛している人の消息を、他の人にはたずねたがらないものだが、道江もあるいはそうではなかったのか、などとぼくが疑ったとしても、必ずしも無茶ではないと思うが、どうか。――」
次郎は、それが恭一の自分に対する気やすめ以上のものではないと思いながらも、ふしぎに怒りを感じなかった。
「書くことが少し先走りしすぎたが、要するに、道江とぼくとの間柄《あいだがら》は、どちらのがわからいっても、親類ないし友だち以上のものではない。少なくとも、ぼく自身に関するかぎり、このことは誓っていえることだし、また道江のがわから言っても、おそらくぼくの判断に誤まりはないだろうと思う。そこでつぎの問題は、何といっても道江の君に対して抱《いだ》いている気持ちいかんだが、これについては、今言ったようなきわめて薄弱《はくじゃく》な判断の材料があるだけで、ぼくには決定的なことは何も言えない。これは、むしろ、君自身で判断するほうが一番たしかではないかと思うのだ。――」
次郎は急に突《つ》っぱなされたような気がしながらも、やはり眼だけはつぎの文字を追っていた。
「こう言うと、君の今の心境では、ただ失望だけを感ずるかもしれない。もし道江の気持ちについての君の判断が、これまで通りで少しも変わらないとすると、それは無理のないことだし、またしかたのないことだ。しかし、君のその失望は、君にとって、まだ決して最後のものではない。いや、最後のものであらせてはならないのだ。橋のないところには橋をかけて進むという方法もあるのだから。……ぼくの考えるところでは、君の現在の悲観的判断がかりに当たっているとしても、道江が君以外のだれかを愛しているということがたしかでないかぎり、断念するにはまだ早い。というのは、道江が少なくとも君に対して友情を感じていることだけはたしかだからだ。しかもその友情は、ぼくの見るところでは、通り一ぺんの友情ではない。見ようでは、それは自然の成り行きに任せておいても、友情以上のものに、育っていきそうに思えるほどの友情なのだ。だから、もし君が欲するならば、いや許すならば、ぼくはその友情を一刻も早く友情以上のものに育てるために積極的に何らかの手段に出たいと思っているのだ。むろんその手段に少しでも無理があってならないことは、ぼくもよく心得ている。その点についてはぼくを信じてもらってもいい。ぼくは、決してそのために君ら二人の友情までも傷つけるようなことはしないつもりだ。しかし、何といっても、まずたいせつなのは、君の真意だ。最初に言ったとおり、すべては君の道江に対する気持ちについてのぼくの判断が誤まっていないということを前提とするのだから、それが誤まっておれば、手段も何もあったものではない。で、どうか、君の真意を率直《そっちょく》にきかせてくれ。返事は、イエスかノーかでたくさんだ。くれぐれも言っておくが、心にもない返事は、この場合ぜひやらないでくれ。こうした問題は、あまり考えていると、つい答えがあいまいになったり、心にもないことを言いたくなったりするものだ。ほかの場合はとにかくとして、今度の場合だけは、君が子供のように単純率直であることをぼくは心から祈《いの》っている。」
読み終わった次郎の顔は、いくぶんほてっていた。うれしいような、恥《は》ずかしいような、それでいて憤慨《ふんがい》したいような、変にこんがらかった感情が、かれの胸の中に渦を巻いていたのである。
かれは赤松の幹によりかかって、手紙をもう一度はじめから読みかえした。それは最初の時よりはるかに時間をかけた、念入りな読みかただった。そして読みおわると、それをかくしにつっこみ、腕組《うでぐ》みをして、しばらくじっと考えこんでいたが、急に何か決心したらしく、大いそぎで自分の居室《きょしつ》に帰って行った。居室に帰ると、すぐ机の上に便箋《びんせん》をひろげた。そして、もう一度考えこんだあと、ペンを走らせた。
「手紙見た。感謝する。しかし、道江の気持ちは、ぼくにはわかりすぎるほどわかっているのだ。君がとろうとする方法は、ただ道江を悲しませるばかりだろう。それは同時に、ぼくにとっても、たえがたい苦痛なのだ。ぼくは、君がぼくに対して注ぐ愛情を道
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