よ。」と言うと、くるりとうしろを向いて、もう一度「わっはっは」と笑い、歯をむき出したまま、むらがっている生徒たちを押しわけて帰って行った。
 こんなふうで、校内はその日じゅう決して静かであったとはいえなかった。下級の教室までが何とはなしに落ちつきを失っていた。ふだんなら何でもないことにまで先生たちの神経がとがり、先生たちの神経がとがればとがるほど、生徒たちはその神経に触《さわ》ってみるのを楽しむといったふうであった。大垣前校長は、いつも先生たちに向かって、「生徒というものは、自分たちのために先生が命をすてるまでは、その先生を偉い先生だとは思わないものだ。それを覚悟の上でなくては、真の教育は出来ない。」と言っていたが、その意味をほんとうに理解した先生は、朝倉先生をのぞいては、おそらく一人もいなかったろうし、今では、どの先生にも、そんな言葉は単に言葉としてでも思い出されていそうになかった。こうして先生たちは自分を下手に護ろうとして、一歩一歩と自分を生徒たちの侮辱と嘲笑の中に追いこんでいたのである。
 次郎は、学校のこんな様子を、終日いかにも淋しそうに見守っていた。彼は、花山校長の鼻の移動の
前へ 次へ
全368ページ中84ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング