もっているのだから、生徒の中には、騒ぐのにいい機会が見つかったと思って、喜ぶものがあるかも知れない。そんなことで、もし実際にストライキになってしまったとしたらどうだろう。ストライキ、とりわけ学校ストライキは、何といっても学校に対する脅迫《きょうはく》であり、一種の暴力である。事件の大小はべつとして、それはちょうど朝倉先生が極力非難した軍人たちの過ちを、そのままくりかえすことになるのではないか。暴力を非難したために迫害されている朝倉先生を暴力で護ろうとする。それは何という矛盾だ。何という不合理だ。そしてまた何という無意味さだ。それが朝倉先生を公衆の中ではずかしめることにならないと誰が言い得るのか。――次郎はそんなふうに考えて、いろいろ思いなやんでいたのである。
「白鳥会の人たちだけでおやりなっても、だめか知ら。」
 道江は、次郎が默りこんでいるのを同情するように見ながら、言った。
「そりゃあ、僕も考えてみたさ。しかし、こんなことは、やはり小人数ではだめだよ。少なくも五年級ぐらい団結しなきゃあ。それに白鳥会だけだと、何だか白鳥会のためにやっているようで変だよ。第一、それでは、ほかの連中が承
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