をおこしたくなるのは当然だし、留任運動をおこす以上、少しでもそれを強力にするために、血書を書いたり、全校生徒に呼びかけたりするのも当然だ。また、朝倉先生が五・一五事件を非難したために学校を追われるのも、それを阻止しようとするお前たちの運動が失敗するのも、時勢がすでにそうなってしまっている以上、何とも仕方のないことだ。そしてその結果がおまえたちのストライキになるとすれば、それもやはり自然の成行きだというよりない。時の勢いで世の中が狂っている以上、その狂いが直るまでは、正しいことから正しい結果ばかりは生まれて来ないんだ。まあ、いわば一種の運命だね。」
 次郎はもう泣いてはいなかった。彼は、まだ十分かわききれない眼を光らして、父の顔をにらむように見つめていた。
「むろん私は、それが自然の成行きだからただ見おくっていればいい、と言うのではない。今の場合、おまえたちが気をつけなければならないことは沢山ある。とりわけ大事なことは、自分で自分のお調子にのらないことだ。おまえは、おまえの血書に少しも不純な気持はない、と信じているようだが、なるほど不純だというのは言いすぎかも知れない。しかし、私には、お
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