思っているかね。」
「成功させます。」
次郎はきおい立って答えた。俊亮は微笑しながら、
「しかし相手は役人だよ。日本の役人は中学生なんか相手にしてくれないんだぜ。」
次郎は、学校の卒業式に訓辞をよみにやって来る役人以外の役人をほとんど知らなかったが、その役人たちは、考えてみると、自分たちとはあまりにもかけはなれた存在のようだった。彼は今さらのようにそれを思って、何か心細い気がした。
「それに――」
と、俊亮は少し声をおとして、
「大巻の叔父さんの話では、朝倉先生の辞職の原因は五・一五事件の軍人を非難したからだっていうじゃないか。」
「ええ、しかし朝倉先生の言われたことは正しいんでしょう。」
「そりゃ正しいとも。たしかに正しいよ。」
「正しくってもいけないんですか。」
「正しいことで役人が動く世の中なら問題はないさ。しかし、床の上を歩かないでいつも天井にぶらさがっているような今どきの役人では、そうはいかないよ。」
次郎には、床だの天井だのという言葉の意味がよくのみこめなくて、きょとんとしていた。
「つまり日本の役人は、権力という天井にぶらさがって、床の上をあるく国民の迷惑なんかお
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