事を恭一にきいたというのが第一おかしい。
そんな考えが混沌《こんとん》とした一種の感情となって彼の心をかきみだした。そして、そのために、彼はいやでも道江に彼の「恋人」を見出し、恭一に彼の恋の競争相手を見出さないでは居れなくなって来たのである。
恋の競争相手が遊蕩児《ゆうとうじ》であり悪漢であることは、恋する人にとって決して不幸なことではない。それは、その人が自分の恋をはっきり意識してため息をつく必要もなく、しかも正義の名において、どのようにも勇敢に恋人のために戦うことが出来るからだ。何といっても、最も不幸な恋は、恋の競争相手が自分の敬愛する人であり、しかも恋の勝利者としての諸条件を自分よりもより多くめぐまれた人の場合であろう。そうした場合、恋する人は、否応《いやおう》なしに自分の苦しい恋をはっきりと意識させられるであろうし、同時に、恋人のためにいさぎよく戦いの矛を収《おさ》めなければならないであろう。しかも、そうすることによって、その恋はいよいよせつないものになって行くのだ。
次郎は、道江の顔に自分の視線をひきつけられた瞬間から、次第にそうしたせつない恋の世界に自分の心がさそいこ
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