背広の男が、少しせきこんだ調子で、「朝倉さんはまだですか」とたずねた。まだだと答えると、「見えたらすぐお会いしたいのです。」と言って、すぐ駅長室の方に行ったが、間もなくまたやって来て、待合室をぶらぶらしながら、時計ばかり見ていた。俊亮が、「お見送りでしたらお名刺をいただかして下さい。」と言うと、「いや、いいです、お会いすればわかるんですから。」と言う。とその時には、発車までにまだ五十分近くも間があった。
それから十分あまりたって、朝倉夫人がやって来た。そして三人と話していたが、その男は夫人をじろじろ見るばかりで、何とも言わない。そのころまでは、見送り人もまだ見えなかったので、三人は夫人を相手にゆうべの話をし出して、笑ったり、しんみりなったりしていた。すると、その男がいつの間にか近づいて来て、四人のすぐうしろに立っている。顔をあらぬ方に向けて、耳の神経だけを四人の話声に集中しているといった恰好である。四人は、誰からともなく、口をとじてしまった。
ちらほら見送りの人が見え出したころ、朝倉先生が人力車で乗りつけた。そして見送りの人たちと挨拶を交わしていると、いきなり、その男が、横から割り
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