が、二人とも笑いもせず口もきかなかった。

    二 父と子

 相談はとうとうはっきりした結末がつかないままで終ってしまった。平尾は、自分は総務の一人として、他の総務ともよく相談したうえ、あす校友会の委員全部に集まってもらってこの問題を提案したい、それまでは何ごともおたがいの間だけで決定するわけにはいかない、と主張し出したのである。次郎も、新賀も、梅本もそれには正面から反対も出来ず、平尾の肚を見すかしながらも承知するよりほかなかった。馬田はにやにや笑って次郎の顔を横目で見ながら、「それがほんとうだよ。」と言い、大山はその満月のような顔をよごれた手拭でゆるゆるとふきながら、「それもよかろうな」と言った。
 それでみんなは間もなく帰って行ったが、そのあと、次郎はすぐ畑に出た。なかば行きがかりからではあったが、血書のことを言い出してしまったのが、かえって彼の心をおちつかせ、自分だけはもう何もかもきまってしまったような気持に彼はなっていたのだった。
 畑には、めずらしく俊三が出ていた。次郎を見ると、
「もうみんな帰った? どうきまったんだい?」
「どうもきまらないよ。あす委員が全部集まって
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