た。少くとも二対一ぐらいの差はたしかにあったと思った。しかし、その自信は、彼にとって決して愉快な自信ではなかった。小手取りの名人、――そう考えると、それがそのまま自分の弱点のような気がしたのである。
 彼の気持は、また少しずつかげりはじめた。かげりはじめると、きょうの不愉快な出来ごとがつぎつぎに思い出された。曾根少佐のこと、馬田のこと、そして何よりも朝倉先生の送別式について何の掲示も出ていなかったこと。
 彼は、曾根少佐や馬田のことを、大山に話す気には少しもなれなかった。しかし、朝倉先生の送別式のことだけは、思い出すと、どうしても默っていられなかった。
「きょうの掲示、君は変だとは思わなかった?」
「掲示? 朝倉先生のあれかい。」
「うむ、いつもは送別式のこともいっしょに出るんだろう。」
「そうだね――」
 と、大山は首をかしげたが、
「うむ、いつもは出るようだ。」
「今度はどうして出ないんだろう。」
「さあ、どうしてだかね。たぶん、まだ日がきまっていないんじゃないかな。」
 さっき掲示台のまえで生徒の一人が答えたのと同じ答えだった。次郎は、しかし、今度は大山を低能だとは思わなかった。
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