ったし、県当局としても、自分たちのもくろんだ父兄会のききめがあったものとして非常に喜んだ。もっとも、血書撤回が実現しなかったのが、まだいくらか不安の種になって残っており、本田父子に対する疑惑は少しも解消しなかった。しかし、大勢がこうなった以上、大したことはあるまいということで、血書は握りつぶしの肚をきめ、ただ朝倉教諭退職発令の直後を学校の内外で十分警戒しようということになったのである。
 もっとも、西山教頭と配属将校とは、校長、県当局ほど楽観的ではなかった。二人に言わせると、すべては生徒たちの「戦術」であった。生徒たちは何か重大な方針を決定しているが、事前にそれを妨害されるのをおそれて、わざと平穏を装っている。その証拠には、留任運動の急先鋒であった生徒たちの沈默にもかかわらず、何でもない生徒たちは却って以前よりざわついており、何となく不安らしい表情をしている、というのである。
 なるほど、そう疑って見れば見られないこともなかった。というのは、校友会の委員会が開かれなくなってからは、休み時間になると、校庭といわず、廊下といわず、あちらこちらに十人二十人と集まって何か話しあっており、先生の
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