次郎は何のことだかわからないで、父の横顔を仰いだ。
「きょうは、お前たちが学校の門を出て来るのを県庁の二階から見ていたんだよ。」
 次郎は、新賀と梅本とに左右から支えられ、泣きづらをして校門を出た時の自分の姿を想像して、顔があがらなかった。
 すると、しばらくしてまた俊亮が、
「一本立ちの出来ない人間が血書を書くなんて、少し出すぎたことだったね。」
 俊亮の言葉の調子には、少しも冗談めいたところがなかった。次郎は何か恐怖に似たものをさえ感じたのだった。
「しかし、何ごとにせよ、精一ぱいにやってみるのはいいことだ。そうしているうちに、だんだんとほんとうに一本立ちの出来る人間になれるだろう。きょうはまあよかったよ。」
 俊亮は、そう言って急に柔らいだ調子になり、
「それはそうと、お前は小さい頃、父さんとはじめて水泳をやった時のことを覚えているのかい。」
「覚えています。」
 五つの時、里子から帰って、まだちっとも家に落ちつかないでいた自分を、父が大川に水泳につれて行ってくれた時の喜びは、次郎にとって忘れようとしても忘れられない記憶だった。それは彼に、曲りなりにも、家庭に希望を抱かせた最初の
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