があったからである。
「俊ちゃんは下におりとってくれよ。」
 次郎は、俊三がまだ机のそばにねころんで、じろじろ自分たちの方を見ているのに気がついて言った。
「かまわんさ、俊三君なら。かえってきいていてもらった方がいいかも知れんよ。どうせ四年も加わってもらうんだから。」
 そう言ったのは馬田だった。ほかの四人はだまっている。次郎は、
「いけないよ。まだほかの委員にも相談しないうちに、四年生がいちゃあ、あとでうるさくなるから。」
 しかし、次郎の言葉がまだ終らないうちに俊三はもう階段をおりかけていた。彼は自分の顔がかくれる瞬間、新賀の方を見て、ぺろりと舌を出し、顔をしかめて見せた。新賀は、柔道仲間で、俊三ともかなり親しかったのである。
「どうだい、本田、朝倉先生がやめられるというのに、君は、まさか、默ってはおれまい。」
 俊三の足音がきこえなくなると、すぐ新賀が言った。
「むろんさ。留任運動は決定的だと思うんだ。しかし、方法がむずかしいよ。僕、ひとりでそれを考えていたんだが、……」
「ひとりでかい?」
 と、馬田が、変に微笑しながら、口をはさんだ。次郎はむっとした顔をして、ちょっと彼の顔を
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