よとは言わない。みんなはさっきから一心に俊亮の顔を見つめている。
 俊亮はにこにこしながら、
「その一人というのは私のせがれで、実は血書を書いた本人です。」
「ほう。」
 田上老人はまたほうと言った。そして自分がまだ立ったままでいたのに気がついたらしく、いそいで腰をおろしたが、視線は俊亮に注いだままであった。みんなの視線も動かなかった。石のような沈默の中で、俊亮だけがあたりまえの息をしている。
「血書を書くなんて、どうもなま臭くて、私もそれを知りました時は、あまりいい気持はいたしませんでしたが、しかし、せがれにとりましては、それが精一ぱいの良心的な仕事だったらしく思われましたので、むりにやぶいて捨てろとも言いかねたのです。その血書がもとで、各方面に大変なご心配をおかけするようなことになりまして、私といたしましては、ちょっと意外にも感じ恐縮もいたしているわけです。」
 俊亮は、しかし、心から恐縮しているような様子には見えなかった。
 父兄たちの視線がつぎつぎに俊亮をはなれて課長と校長に注がれた。二人は、その時、頬をすれすれによせて、何かささやきあっていたが、しばらくして、課長が言った。

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