校職員の一人だが、身分はあくまでも軍人である。従って、軍の命令なり要求なりを拒むわけにはいかない。そこに苦しいところがあるんだ。たとえば、憲兵隊から君らの動静について報告を求められたとする。本校職員たる曾根としては、出来るだけ君らの不利になることは報告したくないが、軍人としての責任上、報告せざるを得ない。現にきょうも、憲兵隊では、もう君らがこうして集まっていることを知って、さっきからたびたび電話でいろんなことを自分にたずねて来ている。実際困ったことだ。もっとも、困るといっても、これまでは大したこともなかった。血書の陳情《ちんじょう》をしたという以外に、まだこれといって不穏な言動があったということもきいていないし、自分としては、あくまでも、今度の問題は師弟の情誼の問題で思想問題ではない、という立場で報告することが出来たんだ。しかし、今後の情況如何ではそうはいかないだろうと思う。なにぶん、憲兵隊では、はじめっからこれを思想問題だと見て、重大視しているようだし、君らの行動に多少でもそういう徴候《ちょうこう》があれば、自分として、それをかくして置くわけにはいかんのだからね。ことに、西山先生もさ
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