、隣の教室のまえあたりから、まずきこえた。すると、入口をふさいでいた生徒たちは、いかにも不服そうな顔をしながら、つぎつぎにうしろの方を押して、いくらかの空間をつくった。
 やがてあらわれたのは配属将校の曾根少佐だった。そのあとから西山教頭がはいって来た。ふたりともフェルトのスリッパをはいている。拍車のついた長靴でいつもがらがら音を立てて廊下をあるく曾根少佐としては、それは全く異例なことであった。
 生徒間には、曾根少佐は「ひげ」と「がま」のあだ名でとおっていた。鼻下にすばらしく長いひげをたくわえ、その尖端をカイゼル流にもみあげたのが、うしろからでもはっきり見えるくらいなので、ほかにもひげの多い先生が何人かいたにもかかわらず、少佐赴任以来「ひげ」といえばもう少佐にきまったようなものであった。しかし、このあだ名はあまりにも平凡であり、それに第一少佐本人がそう呼ばれるのをむしろ得意にしているようなふうもあったので、有名なわりに生徒たちの興味をひかず、このごろでは「がま」の方がよほど人気があるようである。「がま」の由来は、校庭で蟇《がま》を見つけた一生徒が、しみじみそれを観察しながら、「蟇《が
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