言って立って行った。
「話って何だい。」
徹太郎は大して気にもとめないような調子でたずねた。道江は顔を赤らめてぐずぐずしている。
「まさか一生の大事ではあるまいね。」
徹太郎は、そう言って笑った。次郎はその瞬間ちょっと固い表情になったが、すぐ自分も笑いながら、道江に代って始終を話した。話しているうちに、彼は自分の言葉の調子が次第に烈しくなって行くのをどうすることも出来なかった。
徹太郎はきき終って、
「ふうむ――」
と、うなるように言ったが、
「そりゃあ、道江さんがここから学校に通うのはいい。そうする方が一番いいと思うんだ。しかし、学校の行きかえりに、次郎君が道江さんの用心棒になるのはどうかと思うね。」
次郎は、ぐらぐらと目まいがするような感じだった。徹太郎は、いつになく沈んだ調子で、
「第一、君は今そんなことに気をつかっている時ではないだろう。君の学校の問題は決して容易ではないようだぜ。まだ噂だけで、はっきりしたことはきかないが、もう警察や憲兵隊が動き出しているというんじゃないか。」
次郎は、朝倉先生の家をあれほど重くるしい気持になって出て来ながら、馬田と道江のうしろ姿を
前へ
次へ
全368ページ中115ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング