次郎物語
第四部
下村湖人
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)脅迫《きょうはく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十分|慎重《しんちょう》に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)何本かのところてん[#「ところてん」に傍点]が、
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一 血書
「次郎さん、いらっしゃる?」
階段のすぐ下から、道江の声がした。
次郎はちょっとその方をふりむいたが、すぐまた机に頬杖をついて、じっと何か考えこんでいる。いつもなら学校からかえるとすぐ、鶏舎か畑に出て、夕飯時まではせっせと手伝いをする習慣であり、それがまた彼のこのごろの一つの楽しみにもなっているのであるが、今日はどうしたわけか、誰にも帰ったというあいさつもしないで、二階にあがったきり、机によりかかっているのである。
次郎はもう中学の五年である。
階段からは、やがて足音がきこえて来た。次郎は机の一点に眼をすえたまま動かない。しかし、べつに足音をじゃまにしているようにも見えない。六月末の風が、あけはなした窓をしずかに吹きとおしている。
「あら、いらっしゃる
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