手なことを申しましてすみませんでした。」
黒田先生は気まずそうに眼をおとしていたが、
「本人はまだあちらに待たしてあります。今日はごいっしょにおつれ帰り下さる方がいいかと思いまして。」
「そうですか。それはどうも。」
俊亮は何か可笑しそうに微笑した。
ちょうどその時間の終りの鐘が鳴った。俊亮は黒田先生のあとについて、さわがしくなった廊下を通り、次郎の待っている室にはいったが、次郎はその時、窓の近くに立って外を見ていた。
「じゃあ、次郎、帰ろう。」
俊亮はそれだけ言ったきり、一ことも口をきかなかった。次郎も父の顔を見て、ただうなずいたきりだった。
間もなく二人は黒田先生に見おくられて玄関を出た。次郎は、方々からたくさんの眼が自分を見ているのを感じて、さすがにいい気持はしなかった。
校門を出ると、すぐ俊亮がたずねた。
「どうだった。最後の瞬間に動揺はしなかったかね。」
「そんなことありません。僕、黒田先生にかえって気の毒だったんです。」
「どうして。」
次郎は黒田先生との対話のあらましを話して、
「僕、先生にあんなふうに言われると、どうしていいかわからなくなるんです。」
「ああいう先生には、ミケラシゼロの鑿《のみ》の必要もないというわけだね。ははは。しかし、あの先生は実際いい先生だ。おまえも気持よく学校にお別れが出来て、仕合わせだったよ。」
「父さんは校長にも会ったんですか。」
「うむ、会った。西山教頭や曾根少佐にもあったよ。」
俊亮はべつに校長室の様子をくわしく話しはしなかった。彼はただ笑いながら、
「父さんには、ミケランゼロの鑿なんて、とても使えんよ。下手すると、女神どころが悪魔が出て来そうだからね。むずかしいもんだ。まあ、しかし、父さんの鑿も、まるで役に立たなかったわけではあるまい。あてた鑿のあとだけは、どこかに残っているだろうからね。」
二人ははればれとした気持になって、校門を遠ざかった。次郎はうしろをふりかえって見ようともしなかった。そしていつの間にか町をぬけ土手にさしかかっていた。しかし、一心橋のたもとまで来ると、次郎は急に馬田との一件を思いおこして、不愉快になった。自分が退学したあとの学校の行きかえりのことまでが気になって来たのである。
「父さん、水をあびて帰りましょうか。」
「うむ、よかろう。」
二人は馬の水飼場に来ると、着物をぬいで
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