なりそうだって仰しゃるんですか。」
「そうだよ、もうすでに迷信家になっているんだよ。」
「どうしてです。」
「朝倉先生の言われたことだと、君は無条件に信じているんだろう。」
 今度は多少の手ごたえがあったらしかった。次郎はじっと考えた。しかし、間もなく彼はきっぱりと答えた。
「信ずる価値のあるものを信ずるのは、迷信ではありません。」
 少佐は二の矢がつげなかった。しかしぐずぐずしているわけにはいかない。
「価値のあるなしは、どうして決めるんだ。」
「自分で決めます。」
「すると朝倉先生が言われたから何もかも信ずる、というわけではないんだね。」
「むろんです。自分で正しいと思うから信ずるんです。しかし、朝倉先生の言われたことで、これまで一度だって、まちがっていたと思った事はありません。」
「それが迷信だよ。現にまちがっていたればこそ、この学校を去られることにもなったんではないかね。」
「ちがいます。先生は権力《けんりょく》の迫害にあわれたんです。」
「何? 権力の迫害?」
「そうです。迫害です。そしてその権力こそ迷信のかたまりです。」
「本田! 言葉をつつしめ!」
「僕はあたりまえのことを言っているんです。先生こそつつしんで下さい。」
「默れ! 失敬な。」
「僕は道理に服従します。おどかされても默りません。」
 二人はいつの間にか立ちあがっていた。
「君は、いったい、秩序ということをわきまえているのか。」
「わきまえています。」
「わきまえていて、よくもそんな無礼なことが言えたな。」
「道理に従うのが秩序です。無法な権力に屈しては秩序は守れません。」
「何だと? すると君は、わしが無法な権力をふるっているとでも思っているのか。」
「思っています。朝倉先生は正しかったんです。権力の迫害にあわれたんです。それは間違いのないことです。それを間違いだといっておさえつけるのは無法です。無法な権力です。」
 次郎は真青な顔をして、頬をふるわせていた。少佐の顔も青かった。彼は歯を食いしばって次郎をにらんでいたが、ふうっと一つ大きな息を吐き出すと、言った。
「それほど強情を張るんでは、もう仕方がない。せっかく君のために計ってやるつもりだったが、わしもこれで手をひく。もう用はないから帰れ。」
 次郎はきちんとお辞儀をして部屋を出た。少佐は部屋につったったまま、そのうしろ姿を見おくった。
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