次郎はすぐそれを読み出した。そのうちに、会員が五六名も部屋を出たりはいったりしたが、それが誰だったかもわからなかったほど、彼は熱心にそれに読みふけった。佐野もいつの間にかいなくなっていた。もううす暗くなっている部屋の中にたった一人坐っている自分を見出して、彼はやっと未練らしく立ち上り、本を本箱にかえした。まだ半分も読み終ってはいなかったが、本は一切室外には持出さない約束になっていたのである。
 翌日も、彼はさっそくこの部屋にやって来た。その日は、めずらしく彼一人だった。彼は昨日読みのこした部分を一気に読み終った。そしてほっと大きなため息をもらし、あらためて掛軸に見入った。昨日以来、「良寛上人」を読んでいるうちに、何か不思議な世界につれこまれていたといった気持だったのである。彼は、子供たちを相手に隠れん坊をして遊んでいるうちに、おいてきぼりを食った良寛の姿を、夢を追うような気持で心に描いた。それは、まるで合点《がてん》の行かない、それでいて否定してしまうには惜しくてならない、なつかしい姿だった。「焚くほどは風がもて来る落葉かな」――そんな句も、妙に彼の心にこびりついていた。本に説明
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