ていた。
「どうだい、次郎君、君、どうする? 宝鏡先生にあやまるんかい。」
大沢がたずねた。次郎は、ちょっと返事にまごついたようだったが、
「僕、もっと考えます。」
と、はっきり答えて、先生の顔を見た。先生は、
「そうだ。うんと考えるがいい。気持がほんとうに練れるまでは、五年でも十年でも考えるがいい。私は君の心の中でそれが練れるのをいつまでも待っている。一方では宝鏡先生にあやまる気になり、もう一方では大沢や新賀と絶交したい気になるような、ちぐはぐの心境では、全く剣呑《けんのん》だからね。」
みんなが笑った。朝倉先生は凉しい眼をして次郎を見ていた。が、しばらくして、
「苦しむのはいいことだよ。」
と、しんみりした声で、ぽつりと言った。それから、今度は、じっと新賀の方を見ていたが、
「君も、少し苦しんでみるがいい。ここでは、大沢や本田のような、苦しみたい連中がちょいちょい集って話しあいをすることになっているが、君もよかったら、これから次郎君といっしょにやって来たまえ。今のところ、三年以上の生徒ばかりだが、君らの仲間もこれから少しずつふえるだろう。」
煎餅を平らげて四人がおいとまし
前へ
次へ
全243ページ中91ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング