してなくなってはいなかったのである。彼は、新賀と大沢とを等分に見くらべながら、ずけずけと言った。
「僕は、僕の思うとおりにするんだから、もう誰にも構ってもらわなくてもいいんです。」
それを聞いて、誰よりもにがい顔をしたのは恭一だった。彼は、これまでほとんど一言も出さないでいたが、やにわに神経質な声をふりしぼって言った。
「次郎! 何を言ってるんだ。失敬じゃないか。大沢君だって、新賀君だって、お前のことを心配しているから、いろんなことを言うんだよ。」
「じゃあ、兄さんも、大沢さんや新賀君の言うことに賛成ですか。」
次郎は、今度は恭一に突っかかって行った。恭一は、ちらと新賀の方に眼をやって、答えに躊躇《ちゅうちょ》したが、
「僕が賛成だか、賛成でないか、そりゃ別さ。僕はただ、お前があんまり失敬だから、言ったんだよ。」
「だけど……」
と、次郎はせきこんで何か言おうとした。すると、大沢が急に笑い出した。そして、
「今日は、兄弟喧嘩はその程度でよしとけよ。ついでに、次郎君の問題も、ここいらで打切りにしたら、どうだい。」
みんなは、ちょっと拍子ぬけがしたような顔をして、大沢を見た。大沢は
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