わし、必死の戦いをいどんだことのある銃器庫の陰に身をかくして、しきりに涙をふいた。
鐘が鳴り、更につぎの時間の鐘が鳴っても、彼はそこを動かなかった、無届で早引をしたり、あいだの時間を休んだりすることは、校則でとりわけ厳重に禁じられているのを、百も承知の彼だったが、そんなことは、彼にとって今は全く問題ではなかった、彼は考えれば考えるほど、無念さで胸がふくらんで来るだけだった。夏以来、彼自身でも健気な努力をして来たつもりだったが、それも無駄だったという気がしてならなかった。それで無念さがなお一層かき立てられた。「無計画の計画」という言葉をとおして、いくらか形を与えられかけていた彼の人生観も、そうなると、もう何の役にも立たなかった。
「ちえっ。」
と彼は何度も舌打をしたあと、やっと一二歩足をかわしたが、しかし、どこに行こうというあてもなかった。彼はただそこいらを行ったり来たりした。彼の靴裏には、白楊の葉にうずもれてまだ新芽をみせない枯草が、ぼそぼそと音を立てた。
歩きまわっているうちに、ふと、彼の頭に妙な考えが浮かんで来た。それは、
(これからうんと数学を勉強するんだ。そして毎時間山伏
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