たとおり駅に出てみた。駅には先生も生徒もまだ一人も見えていなかった。少しおくれて体操の先生があたふたとやって来たが、二人を見ると、
「宝鏡先生の見送りなら、もう帰ってもいい。一昨日たたれたそうだから、途中でほかの生徒にあったら、そうつたえてくれ。」
 二人は、それでも、発車時刻になるまで駅の前あたりをぶらぶらしていた。そのうちに白鳥会員が四五名やって来たが、二人の話をきくと。
「なあんだ、馬鹿にしてらあ。」
 と、あっさり帰って行ってしまった、そのほかには生徒は一人も見えなかった。むろん宝鏡先生も見えなかった。
 発車のベルが鳴ると、新賀は改札口の方を睨みつけるようにして言った。
「しようのない先生だったなあ。」
 次郎は、しかし、いやに淋しい気がした。
(僕たちは、恐らく、もう永久に宝鏡先生に会う機会がないだろう。これは無計画の計画とも少しちがうようだ。)
 彼は、その時、そんなことを一人で考えていたのである。

    一一 上酒一斗


 次郎は、四月以来、恭一と大沢から、熊本城や、阿蘇山や、水前寺などの絵はがきを、何枚も受取っていた。書いてあったことはいずれもごく簡単だったが、
前へ 次へ
全243ページ中131ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング