ようになったからです。こんどの日曜には、もっとほかのかけ声を教えてください。さよなら。」
 俊亮はわけがわからなくて、何度も読みかえした。運平老は、ひとりでにこにこしながら、
「な、どうです。なかなか要領を得とりましょうが。」
「はあ――」
「もうそんなかけ声を出さなくてもよいようになった、という文句には、まさに千|鈞《きん》の重みがありますわい。」
「はあ。――しかし、私には、何のことだか、ちっともわかりませんが――」
「いや、なあるほど。こりゃ、あんたには、ちとわかりかねますかな、はっはっはっ。」
 と、運平老は膝をゆすった。それから、急に真面目な顔をして、
「実を言いますと、わしはお芳を正木さんにお預けしたあと、次郎君との仲がどうだろうかと、そればかりが気になっていましてな。で、お芳に手紙を出して、わしも助太刀をしてやるから一度次郎君をこちらにつれて来い、と申し附けましたのじゃ。ところが、来てみると、二人の仲は案じたほどわるくない。こりゃあお芳にしては上出来じゃ、と思いましたわい。」
「そのことは、私の方にも正木から報《し》らしてもらっていましたので、内心喜んでいたところです。」
前へ 次へ
全305ページ中64ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
下村 湖人 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング