った。
「出て来いと言ったら、出て来い!」
もう一度狐が叫んだ。しかし次郎はびくともしなかった。
「上級生の命令をきかんか! ようし!」
狐は、そう叫んで指揮台を飛びおりると、新入生の列を乱暴に押しわけて、次郎に近づいた。そして、いきなり彼の襟首をつかみ、引きずるようにして、彼を指揮台のまえにつれて行った。すると、ほかの五年生が四五名、ぞろぞろとそのまわりによって来た。その中には、最初演説した生徒や、獰猛な山犬の顔は見えなかった。しかし、その代り、三つボタンが恐ろしい眼をして彼を見据えていた。
「名は何というんだ。」
狐がたずねた。
「本田次郎。」
次郎はぶっきらぼうに答えた。
「ふむ、生意気そうだ。」
三つボタンがはたから口を出した。
「貴様はさっき俺を睨んでいたな。」
狐が今度はうす笑いしながら言った。
「見てたんです。」
「何? 見ていた!」
「ええ、見てたんです。地べたを見るのは無礼だって言うから、顔を見てたんです。」
「理窟を言うな!」
鉄拳が同時に次郎の頬に飛んで来た。しかし、次郎の両手が狐の顔に飛びかかったのも、ほとんどそれと同時だった。
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